国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED), 株式会社国際電気通信基礎技術研究所(略称ATR)・脳情報通信総合研究所(所長・川人光男)、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校(Hakwan Lau教授)などのグループは、デコーディング技術を用いて、恐怖刺激に対する主観的な感情体験と客観的な生体反応を司る脳領域がそれぞれ異なることを証明しました。, 不安障害などの感情の障害の研究では、主観的な感情体験の代用として、皮膚発汗、瞳孔反応などの客観的な生体反応がよく使われます。しかし近年、主観的な感情体験と客観的な生体反応の間には解離があることが指摘されていました。本研究成果は、感情体験の代用としての生体反応の使用に疑問を投げかけ、それぞれ個別の尺度として扱うことの重要性を明らかとしました。, 具体的には、今回、ATRのVincent Taschereau-Dumouchel研究員等は、機能的磁気共鳴画像(functional Magnetic Resonance Imaging, fMRI)から脳情報を解読する機械学習の技術:デコーディング技術を用いて、主観的な恐怖体験の強さと客観的な恐怖反応の強さを予測可能な脳領域を探索しました。その結果、客観的な恐怖反応の強さは扁桃体等で予測可能である一方、主観的な恐怖体験の強さは前頭前野で予測可能であることが判明しました。, この結果は、今後の研究や治療において、客観的な生体反応に加えて主観的な感情体験を指標とすることの重要性を示唆しており、精神疾患に対する最適な治療法の開発につながることが期待されます。, 今回の研究において、国際共同研究チームは、主観的な恐怖体験と客観的な恐怖反応を生み出す脳のメカニズムがそれぞれ異なるということを示しました。従来の心理実験では、主観的な精神状態の代用指標として皮膚発汗などの客観的な生体反応を用いることが一般的でした。しかし、長年使われてきた客観的な生体反応は実は主観的な精神状態と対応していないのではないかという批判が最近になって出てきました。例えば、痛みの感覚はなんら客観的な生体反応を伴わないことが往々にしてあるということが知られています。このため痛みの評価については、主観的な痛みの強さがゴールドスタンダートの尺度として用いられてきました。, 近年、同様の議論が不安や恐怖についてもなされています。主観的な不安や恐怖では客観的な生体指標が信頼のできる指標として受け入れられており、様々な研究で用いられています。特に、不安障害では生体反応と関連する脳回路が治療薬の主な標的とされています。しかし、複数の研究者が、皮膚発汗や扁桃体の活動といった客観的な生体反応は自動的な反応であり、必ずしも主観的な意識的体験を伴わないことを指摘しています。つまり、客観的な生体反応と主観的な感情体験には解離が見られるというのです。一方で、例えば扁桃体の活動は主観的な感情体験と強く相関するということも報告されており、主観的な感情体験と客観的な生体反応の解離に疑問を呈する声もありました。, 本研究は、この疑問をfMRIにもとづく脳情報解読(デコーディング)の観点から明らかとするべく計画されました。, この研究では、主観的な感情体験の脳内表象が客観的な生体反応の脳内表象と区別できるかどうかを確認しました。実験の概要を図1に示します。実験では、被験者が様々な動物にどの程度主観的な恐怖を感じるかについて質問を行います(図1A)。続いて、被験者が恐怖の対象となる写真を見ている時の脳活動と恐怖反応を測定します(図1A)。具体的には、MRIの中で被験者には、恐怖を感じる対象となることが多い動物の写真を中心に3600もの画像を見せて、客観的な生体反応の指標として、身体的な恐怖反応である皮膚発汗を測りました。次いで、デコーディング技術を用いて、動物の写真を実際に見ている時の脳活動から、これらの指標を推測する判別器をそれぞれ作成しました(図1B)。最後に、作成した判別器による性能を、新しい被験者集団から取得したデータで確認しました(図1C)。, 従来の一般的な研究で用いられる「恐怖条件刺激[5]」と異なり、本研究では生活の中で広くみられる恐怖の対象となる写真を用いました。これにより従来の研究と比較して自然な動物恐怖症などの患者でみられるものと近い脳活動をとらえることが可能となります。, まず、主観的な恐怖の感情と客観的な恐怖反応の関係を解析しました(①主観的な恐怖体験と客観的な恐怖反応の相関)。次いで、機械学習の技術を用いて、写真を見ている時の脳活動のみから主観的な恐怖体験と客観的な恐怖反応をそれぞれ推測する判別器を作成しました。これを、全脳及び、脳領域単位で実施しました。全脳で作成した判別器を用い、「主観と客観のうち異なる恐怖の程度を推測できるか」ということを検討しました(②判別器の交差検証)。つまり、主観的な恐怖体験の判別器で客観的な恐怖反応を推測できるか、また逆のことが可能であるか、ということを検証しました。脳領域単位で作成した判別器からは、各脳領域で作成した主観的な恐怖体験と客観的な恐怖反応についての判別器の性能の差を比較しました(③異なる性能の判別器を生み出す脳領域)。, 図2に、主観的な恐怖体験と客観的な恐怖反応の関係を示します。この二つは一定の相関(片方が強いともう片方も強いという関係)はあるものの、相関関係から外れた動物(例えば兎、鳥、蜘蛛)が存在するということが明らかとなりました。, 図3に、主観的な恐怖体験の判別器で客観的な恐怖反応を推測できるか(左)、客観的な恐怖反応の判別器で主観的な恐怖体験を推測できるか(右)についての結果を示します。推測の成績に関する判定は、判別器の作成に使用した被験者集団とは異なる集団を対象に行いました。客観的な恐怖反応の判別器からは、主観的・客観的どちらの恐怖も推測が可能でしたが、主観的な恐怖体験の判別器では客観的な恐怖反応を推測できないことが確認されました。, 最後に、脳の各部位のうち、作成した主観的な恐怖体験と客観的な恐怖反応の判別器の性能が顕著に異なる領域を示します。図4の黒線で囲まれた部位が、統計的に有意に二つの性能が異なった箇所です。そのうち、赤色の領域は主観的な恐怖体験、青色の領域は客観的な恐怖反応の判別がより性能が高かった領域です。青色の客観的な恐怖反応の領域に含まれるのは、扁桃体等の従来の研究で恐怖反応の処理に重要であるとされる脳領域です。一方で、赤色の主観的な恐怖体験の領域には前頭前野といわれる脳領域が含まれることが明らかとなりました。, 不安障害などの感情の障害の研究では、主観的な感情体験の代用として客観的な生体反応がよく使われます。しかし近年、主観的な感情体験と客観的な生体反応の間には解離があることが指摘されていました。本研究成果は、主観的な感情体験の代用としての客観的な生体反応の使用に疑問を投げかけ、それぞれ異なる尺度として扱うことの重要性を明らかとしました。, 精神疾患、特に不安障害やPTSDなどでは、主観的な感情体験や客観的な生体反応と関連する脳領域が治療の標的とされることがあります。従来はこの二つの反応を同一のものとみなして治療法の開発などが行われてきましたが、この二つを別のものとして扱うことにより、従来にはない新たな切り口での治療法の開発が期待されます。. 当サイトは、Javascriptを使用しています。Javascriptを無効にして閲覧した場合、コンテンツが正常に動作しないおそれやページが表示されない場合があります。当サイトをご利用の際には、Javascriptを有効にして閲覧下さい。, 理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター記憶神経回路チームのジョシュア・ジョハンセンチームリーダーらの研究チーム※は、ラットを使った実験で、恐怖体験の記憶形成において従来の仮説は有力であるものの、それだけでは十分ではなく、神経修飾物質の活性化も重要であることを示しました。, 私たちは、日常のささいな出来事は簡単に忘れてしまいます。一方、恐怖を感じた体験は記憶として残ります。これまで、記憶の形成は「ヘッブ型可塑性[1]」によって形成されるという説が有力でした。互いにつながった2つの神経細胞(ニューロン)が同時に活動し、その結合(つながり)が強化されることによって記憶が形成される、という仮説です。しかし、この仮説は、実際に記憶を形成している最中の脳内においては、未だ検証されていませんでした。, 研究チームは、光遺伝学[2]とよばれる神経活動を操作する技術を用いて、ラット脳内の扁桃体の神経活動を抑制しました。その結果、実際に恐怖記憶の形成が阻害されただけでなく、扁桃体[3]でのニューロン同士のつながりの強化も妨げられ、ヘッブ仮説を支持する結果が得られました。また、光遺伝学によって扁桃体のニューロンを人工的に活性化しても、怖い体験は与えずに音刺激を与えるだけでは、恐怖記憶は形成されないことが分かりました。しかし、扁桃体のニューロンの人工的な活性化に加えて、覚醒や注意に作用する神経修飾物質[4]「ノルアドレナリン[5]」の受容体を同時に活性化させると、怖い体験を与えなくても、恐怖記憶が形成されることが明らかになりました。この結果は、恐怖体験の記憶形成においてヘッブ型可塑性は有力な仮説であるものの、それだけでは十分ではなく、神経修飾物質の活性化も重要であることを示唆しています。, 本研究成果は、恐怖記憶が作られる仕組みを理解することで、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など恐怖記憶が有害に働いている疾患を、軽減させる治療への応用が期待できます。, 本研究は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America』オンライン版(12月8日付け:日本時間12月9日)に掲載されます。, 理化学研究所 脳科学総合研究センター 記憶神経回路チーム チームリーダー Joshua P. Johansen (ジョシュア・ジョハンセン), ニューヨーク大学 神経科学センター 教授 Joseph E. LeDoux (ジョゼフ・ルドゥー), 私たちは、日常のささいな出来事は簡単に忘れてしまいます。しかし、恐怖を感じた体験は比較的鮮明に覚えています。例えば、幼少の頃に怖い犬に追いかけられたなど、恐怖を伴う記憶は、その時自分がどこで何をしたか、鮮明に思い出せる人も多いと思います。1949年、カナダの心理学者ドナルド・ヘッブは「互いにつながった2つのニューロンが同時に活動することでそのつながりが強化され、記憶が形成される」(ヘッブ型可塑性による記憶形成)という仮説を提唱しました。恐怖の記憶の形成に関しても、これまではヘッブ型可塑性によって説明されてきました(図1)。, 実際、摘出脳サンプルにおける少数のニューロンを用いた実験系によって、このようなヘッブ型可塑性が2つのニューロン間のつながりを強化することが示されています。しかし、この仮説は、実際に記憶を形成している最中の脳内では、未だ検証されていませんでした。, 今回、研究チームは、怖い体験によって引き起こされる扁桃体ニューロンの活動が、直接恐怖記憶を形成するのかどうかを実験的に調べることで、ヘッブ仮説の検証を試みました。, 実験動物モデルであるラットに、何の反応も誘発しない中性的な刺激である音と、怖い体験である弱い電気ショックを同時に与えると、ラットは音に対して「すくみ行動」という恐怖反応を示すようになります(図2)。これを恐怖条件付けと呼びます。, 研究チームは、最新の神経活動操作技術である光遺伝学を用いて、弱い電気ショックが引き起こすはずの扁桃体ニューロンの活動を抑制しました。その結果、恐怖記憶の形成が阻害されました(図3A)。また、扁桃体ニューロンの音刺激に対する反応の増強も妨げられました。これは、ニューロン同士のつながりの強化が妨げられたことを意味します。これらは従来のヘッブの仮説を支持する結果です。, ところが、怖い体験としての弱い電気ショックを与える代わりに、光遺伝学によって扁桃体ニューロンを人工的に活性化しながら音刺激を与えたところ、恐怖記憶は形成されませんでした(図3B)。, 研究チームは、恐怖記憶の形成に関わる別の因子として、覚醒や注意に重要な役割を果たすと考えられている、神経修飾物質「ノルアドレナリン」に注目しました。扁桃体ニューロンを人工的に活性化しながら、ノルアドレナリン受容体の活性化を同時に起こす実験を行ったところ、怖い体験を与えなくても恐怖記憶が形成されました(図3C)。, これらの結果は、恐怖記憶の形成には、ヘッブ仮説で示されたニューロン間のつながりが強化されるメカニズムが重要だが、それだけでは十分ではなく、注意を喚起する際に働く神経修飾物質の活性化も重要であることを示しています(図4)。, 本研究は、実際に行動している動物の脳内で起こる記憶形成について、従来主流であったヘッブ仮説を初めて検証したものです。今回の結果はヘッブ仮説を基本的に支持するものですが、ノルアドレナリンのような他の要素の働きも記憶の形成においては、重要であることも示しています。これは、犬に追いかけられる、といったような恐怖を感じる出来事が、脳内で感情を伴った恐怖記憶へと変換されていくプロセスを理解するための重要な一歩です。また、この恐怖記憶を引き起こす脳内プロセスは、ほかのさまざまな学習プロセスに共通した、普遍的な記憶形成制御メカニズムの典型といえるかもしれません。心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生命を脅かすような非常に強い恐怖の記憶が残り、何気ない状況でも恐怖記憶がフラッシュバックすることにより、日常生活に支障をきたしてしまう精神疾患です。恐怖記憶が形成される仕組みを理解することで、このような疾患において有害に働いている恐怖記憶を、軽減させるような治療へと応用できる可能性があります。, 理化学研究所 脳科学総合研究センター 記憶神経回路研究チーム チームリーダー Joshua P. Johansen (ジョシュア・ジョハンセン), 理化学研究所 脳科学研究推進室 Tel: 048-467-9757 / Fax: 048-467-4914 pr [at] brain.riken.jp (※[at]は@に置き換えてください。), 理化学研究所 広報室 報道担当 担当編集委員:加藤 忠史(独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター), 英語名:fear conditioning 独:Angstkonditionierung 仏:peur conditionnée, 動物に音、光、場所(文脈)など、それ自体では恐怖反応を誘導しない条件刺激と、電気ショックなどの恐怖反応を誘導する非条件刺激を提示し続けると、動物は両者の関連を学習し、非条件刺激のみで恐怖反応を示すようになる。これを恐怖条件づけとよび、生物が危険を予測することを学ぶ行動現象であり、動物にとっての一種の防御反応であると考えられている。一方、恐怖条件づけが成立した後に、非条件刺激が提示されない条件下で、条件刺激のみを、繰り返し提示し続けると、条件刺激に対する反応が見られなくなる。これを消去と呼ぶ。恐怖条件づけの獲得、その後の恐怖記憶の形成、貯蔵、そして、想起には扁桃体が中心的な役割を果たすことが明らかにされている。心的外傷後ストレス障害は恐怖記憶制御の異常が関係すると考えられており、恐怖記憶制御の観点からのメカニズムの解明が期待されている。, ヒトを含めた動物では、恐怖体験の記憶として恐怖記憶が形成(固定化)される。この恐怖記憶の実体は、恐怖を感じさせたこと(例えば、交通事故)を非条件刺激、一方、恐怖体験時の文脈(視覚、聴覚、嗅覚など五感で感じたこと全て)を条件刺激とする恐怖条件づけ記憶である。従って、恐怖体験時の文脈の一部(何れかの条件刺激)に遭遇すると、この条件刺激に反応して、恐怖記憶が想起(思い出)され、恐怖反応が表出される。恐怖条件づけ後に恐怖記憶を保持するためのプロセスが「固定化」である。恐怖記憶は生物が危険を予測することを学ぶ行動現象であり、動物にとっての一種の防御反応であると考えられている[1] [2]。, 心理学的実験において、音、光、場所(文脈)など、それ自体では恐怖反応を誘導しない条件刺激(conditioned stimulus; CS)と、電気ショックなどの恐怖反応を誘導する非条件刺激(unconditioned stimulus; US)を提示すると、動物は両者の関連を学習し、恐怖反応を示すようになる。これを恐怖条件づけという。現在までに、恐怖条件づけは、昆虫からヒトに至る多くの動物種において観察されている[3] [4]。これは一種のパブロフ型条件づけである。, 通常、条件刺激と非条件刺激が時間的に接近して提示されるが、非条件刺激が提示されない状況で、条件刺激のみが持続的に、または、繰り返し提示され続けると、条件刺激に対する反応が見られなくなる条件づけ反応の「消去」が起こる。恐怖条件づけの消去は、固定化された恐怖記憶が想起された時に誘導されるプロセスである。逆に、条件刺激の提示時間が短い場合には、恐怖記憶想起に伴って恐怖記憶が維持あるいは増強する、再固定化という現象が起きる。このように、恐怖記憶想起後には、恐怖記憶を維持(再固定化)するか、あるいは、消去するかを決定するメカニズムが存在するものと考えられている[5] [6] [7]。, 床に電線を敷いた小箱(チャンバー;文脈)の中で、軽い電流を数秒間流す電気ショックをマウス(あるいはラット)に与える。この場合には、場所を含めた状況(文脈)を条件刺激、一方、電気ショックによる恐怖を非条件刺激とする恐怖文脈条件づけが行われる(図1上)。条件づけが成立したか否かは、恐怖文脈条件づけの場合、電気ショックを与えたチャンバーにマウスを再び戻して、マウスの恐怖反応である、身動き一つ取らない「すくみ(恐怖)反応」を測定して評価する。恐怖文脈条件づけが成立していれば、チャンバーに3−5分程度戻した際に、すくみ反応を示す時間が長くなる。また、恐怖増強驚愕や心拍数も恐怖反応の指標として用いられる[8] [9]。, チャンバーの中で電気ショックを与える際に、大きな音量のブザー音を30秒程度鳴らして、ブサー音の終了間際に1~2秒間の電気ショックを与えれば、ブザー音を条件刺激とする恐怖音条件づけとなる(図1下)。この場合、電気ショックを与えた時とは異なるチャンバーにマウスを入れ、条件刺激であるブザー音を提示した時のすくみ反応を測定する。恐怖音条件づけの場合、一度だけ電気ショックとブザー音の組み合わせ(ペアリング)を与えるのが一般的である。, 恐怖音条件づけの重要な点として、たった一度だけのペアリングで、音と電気ショックの関連づけルールを選択的に学習できるわけではなく、あくまでも、場所や音を含めて恐怖を与えられた状況(文脈)を記憶しており、条件刺激の一つである「音」が提示されると、音を手がかり(cue)にして恐怖反応を表出しているに過ぎない。音と電気ショックの関連づけを選択的に学習させるには、このペアリングを何度も繰り返し提示する必要がある。これを痕跡恐怖音条件づけという。, ヒトにおける最初の恐怖条件づけの実験は、心理学者ジョン・ワトソンが1920年に行ったリトルアルバートの実験である[10]。この実験では、生後11ヶ月の乳児(アルバート)に対して、白ネズミを条件刺激、一方、乳児を恐がらせるに十分な、ハンマーで鋼鉄の棒を叩くことによる大音量の音を非条件刺激とする恐怖条件づけに成功した[10]。まず、アルバートが白ネズミを怖がっていない(アルバートにとって白ネズミが恐怖を感じさせる非条件刺激ではない)ことを確認した。この条件下で、アルバートがネズミを触ろうとする時に、背後においてハンマーで鋼鉄の棒を叩いて大きな音をたてた。このような、白ネズミ(条件刺激)と大きな音(非条件刺激)との提示を何度か行った結果、アルバートは白ネズミと音の提示に反応して泣き出すようになった(恐怖反応を示した)。さらに、ついには、アルバートは白ネズミ(条件刺激)を見せられるだけで、泣き出すようになった。興味深いことに、白ネズミによる恐怖条件づけ成立後には、アルバートはウサギ、犬、毛皮のコートなど、白ネズミを連想させるものを見せられても、泣き出した。このような実験結果は、恐怖条件づけのみならず、強い恐怖条件づけ後に観察される条件刺激の普遍化(generalization)を示唆していると言えよう。, ヒトにおける実験的な恐怖条件づけの場合、例えば、コンピューターの画面上にある模様が出てきた時に腕に軽い電気ショックを与え、条件刺激(模様)と非条件刺激(電気ショックによる恐怖)との関連性を条件づけする[11]。恐怖反応の評価としては、皮膚電気伝導度を中心に、口頭報告や脳画像解析、筋電図検査を介した筋肉応答の変化も用いられる[4] [11] [12] [13]。, 消去は1927年にパブロフによって指摘された現象であり、後に、フロイトによって「馴化(habituation)」とも呼ばれていた。現在では、「消去(extinction)」と呼ぶのが一般的であり、心理学的のみならず、神経生物学的な研究の対象となっている。, 恐怖条件づけが成立した後に、非条件刺激が提示されない条件下で、条件刺激のみを持続的に、または、繰り返し提示し続けると、条件刺激に対する反応が見られなくなる。例えば、恐怖音条件づけ及び恐怖文脈条件づけの場合、条件刺激である音を提示し続ける、あるいは、電気ショックを与えたチャンバーに長時間戻す場合に、条件刺激から表出される恐怖反応が観察されなくなる。このような現象が消去であり、条件刺激に対して反応する必要がないことを新たに学習することである。, 消去を説明する上で、重要な点は、消去学習が進行しても、条件づけそのもの(条件づけ記憶)が失われるわけではないことである。消去学習から長期間経過後に、条件刺激を提示すると再び条件反射が現れる(spontaneous recovery)[5] [14]。また、消去学習後に恐怖条件づけが成立しないような弱い非条件刺激を与えても、条件刺激に対する条件反射が復活する(reinstatement)[5] [15]。さらに、恐怖音条件づけを例にすると、ある文脈(電気ショックを受けたものとは異なるチャンバー)において、音を提示し続けて消去を誘導しても、さらに異なる文脈(別のチャンバーや電気ショックを受けたチャンバー)において音を提示すると、恐怖反応が再び表出する(renewal)[5] [16]。以上のような観察から、消去学習後にも、条件づけは保持されていることが示されている。, 薬理学的解析や損傷実験により、恐怖条件づけの獲得、その後の恐怖記憶の形成、貯蔵、そして、想起には扁桃体が中心的な役割を果たすことが明らかにされている[18] [19] [20]。一方、恐怖文脈条件づけには、海馬機能も必須であることが明らかにされている[21]。このような研究を通して、恐怖音条件づけは扁桃体、一方、恐怖文脈条件づけは扁桃体と海馬の両方を責任領野とすることが示されている[22]。ヒトにおいても、げっ歯類と同様に、恐怖条件づけには扁桃体が重要であることも観察されている[23]。, 消去には前頭前野皮質と扁桃体が中心的な役割を担っており、海馬も、その制御に重要な役割を果たすことが明らかとなっている[5] [24]。, 扁桃体外側核(Lateral Amygdala; LA)は聴覚皮質(Auditory cortex)、聴覚視床 (Auditory thalamus)などから入力を受け、皮質や視床と扁桃体との間のインターフェイス的な役割を果たしていると考えられている。特に重要な点として、外側核の興奮性ニューロンが恐怖音条件づけの記憶回路(記憶痕跡)に参入していること、条件づけ後に神経可塑的変化が誘導されることも明らかにされており、恐怖条件づけの獲得やその記憶の保持に重要な役割を果たすことが実証されている[25] [26] [27]。なかでも扁桃体内中心核は恐怖条件づけにおける恐怖反応の表出を制御することが明らかにされている。中心核は、外側核からの直接経路と、外側核から基底核(Basal nucleus; BA)を経由する間接経路により制御を受ける。最近の解析から、中心核も、視床からの直接的な入力を受けていることが示唆されており、恐怖条件づけの獲得と固定化に必要であることも明らかになりつつある[28] [17] [29]。中心核もいくつかの領域に分類され、中でも、正中中心核(Centromedian nucleus; CeM)はこれまで中心核の役割と考えられてきた恐怖反応を表出する役割を果たす。一方、外側中心核(Central lateral nucleus; CeL)は、GABA産生介在ニューロンを中心に構成され、正中中心核を持続的に抑制しているものの、この抑制の解除により、恐怖条件づけの条件刺激に対する恐怖反応が誘起される[17] [30]。中心核からの直接的な投射先として、外側視床下部と中脳中心灰白質が同定されており、これらの投射を介して血圧の増加やすくみ反応などの恐怖反応の表出がそれぞれ引き起こされる[31] [32] [33]。, 扁桃体基底核(BA)は外側核からの投射を受け、この入力によって、直接的に、また、扁桃体の介在核ニューロンを介して間接的に中心核を制御する[17] [30]。さらに、基底核は前頭前野皮質からも投射を受けており、この入力によって、恐怖条件づけの消去を制御する[34]。重要な点として、基底核には恐怖条件づけによる恐怖反応発現時に興奮する「恐怖ニューロン(fear neuron)」と消去発現時に興奮する「消去ニューロン(extinction neuron)」が存在することが明らかにされ、これらのニューロン群が前頭前野皮質と連携して、恐怖条件づけの獲得や表出を正負に制御していると考えられる[35]。, 心的外傷後ストレス障害 (post-traumatic stress disorder, PTSD)は、恐怖記憶を原因とする精神疾患である。PTSD発症には恐怖記憶制御の異常が関係すると考えられており、恐怖記憶制御の観点から、PTSD発症のメカニズムの解明が期待されている[17] [36]。また、現在、PTSDの有効な治療法として認知行動療法「持続エクスポージャー療法」が知られている。この持続エクスポージャー療法は、恐怖体験の記憶を繰り返し語ることを主体とする治療法であり、この治療方法の生物学的基盤は恐怖記憶消去であると認識されている。そこで、恐怖条件づけ記憶の獲得、固定化、消去や再固定化のメカニズムに基づいて、持続エクスポージャー療法を迅速化する試みも行われている[37] [38] [39] [40]。, https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=恐怖条件づけ&oldid=41503, Attribution-NoDerivatives 4.0 International.
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